「森の記憶 」 二人展 (その2)





<その2> 吉野剛広 作品展


それぞれが違う表情をもって重なり合う緑、青、黄色。赤にオレンジ、時にピンク・・・
様々な色が清明に響きあい、震えている。
厚く塗られた油絵の具の表面を削ってゆく直線と曲線は、ある時はどこまでも続いてゆく線路のように、
またある時は二つの場所をつなぐ通路のように、階段のように。
夜の街を、湖の底を、風の匂いがする森の風景の中を、伸びてゆく。
回転するオブジェ、空を行く気球、物問いたげに佇む動物たち・・・・
そこには人間の姿はない。
それでいて懐かしい、暖かな空間。遠い記憶の向こう側に置きっぱなしにしてきた場所。
忘れていたものがたり。
一瞬、長いこと忘れていたはずのその場所が、ものがたりが、かなたから私に呼びかけてくるような錯覚。
不覚にも目頭が熱くなる。この感覚は何だろう。

たとえば一枚の鳥の絵がある。
塗り重ねられた濃い群青色を背景に描かれた鮮やかな黄色の子鳥。
その鳥の、なんと不格好なことか。
あたかも自分が鳥であること、鳥であったことに戸惑いながらも、やっと立っている幼い鳥。
「鳥」としての自分を獲得するまでの痛みや苦しみが、そのまま伝わってくるような気がして、愛おしくてならない。
「私は確かにこの子を知っている」という思いに打たれて、作品の前を離れられない。



吉野さんの油彩は、みな板絵である。
キャンバスだと、絵の具を塗るときにたわむ。それが苦手なのだという。
相手が板であれば、どんな力がかかっても、たわむことなくその勢いや筆圧を受け止めてくれるのだという。
吉野さんの場合、絵の具を塗るだけでなく、削るという作業も加わる。
彼にとって「削る」こと、「ひっかく」ことは作業というより、もっと内的な行為に近いのかもしれない。
作品の表面を傷つけることで生まれる線は、場所と場所、時間と時間をつないで、私を遠くに連れていく。
そこは夢と夢が会話する世界でもある。




画像





もとはといえば、案内状に印刷されていたどこかとぼけた感じのするワニのオブジェ。
初めて目にした時から、この子に会いたかった。
カメレオン大好きな私、なぜかこのワニをカメレオンだとばかり思い込んでいたのだけれど、
まじまじと眺めてみればワニ以外の何物でもない。
というより、ワニですよ!!  どこでどう間違えたのだろう。
くるりと巻いたしっぽでカメレオンと思いこんだのか・・・・
タイトルは「たまーに歩くわに」。なるほど確かにワニであった。
いや実際、カメレオンの作品もあったのではあるが。

カメレオンと見間違えたのは、単純に私の早とちりなのだが、他の作品を観たあとで改めてこのワニを見ると、
不思議なギャップを覚える。
鮮やかな色で描かれる幻想的な作品に通底する密やかな痛みのようなものと、このコミカルなタイトルのワニ。
ワニもカメレオンも、夜な夜な歩きまわっては会話する夢たちを探しているのかもしれない、と思って見たり・・・・




モノクロでありながら、凝ったような湿度と濃密なまでの原初の生命力を感じさせる小松嘉門さんの作品には
中心に向かって集約してゆくエネルギーを感じたものだったが、
吉野さんの作品の場合はむしろ反対に、ある一つの場所から拡散してゆく流れのようなものを感じる。
正反対のイメージを持つ小松嘉門さんと吉野剛広さんの作品は対照的であるがゆえに、
それぞれの個性が際立つ素敵な作品展であった。



     ★「森の記憶」<その1> 小松嘉門 木版画展 → http://folli-2.at.webry.info/201406/article_18.html







会場は立科町女神湖畔のコロシアム・インのギャラリー。
小松さん、吉野さんの作品展に代わって、版画工房フェンリルさんの作品展が開催されている。
森の葉影や月明かりの下に隠れている小さな精霊たちの世界。作品展のタイトルも「精霊たちの休日」
近くを通るようなことがありましたら、ぜひ足をお運びください。




     ★版画工房フェンリルHP → http://kouboufenrir.web.fc2.com/index.html

     ★工房フェンリル 「五風十雨農場の妖精たち」 → http://folli-2.at.webry.info/201311/article_6.html









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この記事へのコメント

しっぽ
2014年07月16日 08:40
お久しぶりです。
お忙しいことと思います。

カメレオンお好きとは知りませんでした。同じですね。
実は自分自身カメレオン的だと いつの頃からか思っているの~

女神湖のあたりはどんなになっているのでしょう。もう40年近く訪れて
いません。当時は民宿がパラパラあるだけでした。   

さて確かにこれはワニさん…どこかですとんと勘違いする。
人生にも時としてありますね。

またきます。あ、倍音も(^^ )
ぶんな
2014年07月16日 22:03
板絵、どこかで見たことがあるような気がしますが、思い出せません。ただ、どこか懐かしさを感じます。
>「鳥」としての自分を獲得するまでの痛みや苦しみが、そのまま形になったような作品
たしかにそんなところを潜って明るみに出たような作品であるかとも思わせられました。
ワニくん、好ましいキャラで板に定着し、鑑賞者にジョークでも語りかけているようです。
2014年07月17日 05:24
◇しっぽさん

カメレオンがお好きと伺い、嬉しいです\(^o^)/
カメレオンが目玉だけくるくるとまわしながらじっと動かずにいる姿は、何か難しいことをひたすら熟考しているように見えませんか。
食べることなど、まるで興味がないような顔をしていながら、目のまえをアブでも横切ろうものなら、瞬時に長い舌をくり出して捕獲するワザは見事ですね。
体色が変化することと合わせて、忍者みたいです(^^♪
とすると・・・・、
カメレオンをもって任じているしっぽさん、ニンジャでしたか!?

女神湖周辺は林の中のホテルやペンションがお洒落なリゾート、という感じです。
一部のホテルを除き、一時ほどの賑わいはなくなりましたが、取ってつけたような観光施設もありませんし、かえって落ち着いた雰囲気になっているかもしれません。

勘違い、思い違い・・・・
人生のつまづきにならぬよう、用心用心。
倍音、私の方も中途半端なままで心残りです。またご一緒いたしましょう。
2014年07月17日 05:36
◇ぶんなさん

おはようございます。
目にした、という定かな記憶もないのに、懐かしく感じる・・・・
吉野さんの作品にはそんな魅力があります。
私が一番気になった鳥の絵、実は二枚ありました。
一作目は、何を描いているのか、描こうとしているのか自分でもわからないまま絵筆を走らせ、紆余曲折した結果、なんだか鳥のように見えてきた、という作品。
もう一枚は、最初から鳥をイメージして描いたという作品です。
一見同じような鳥の絵なのですが、私が惹かれたのは前者でした。
たまたまの偶然で、鳥になってしまった鳥。その偶然に戸惑いつつも、「鳥」であることを受け入れようとしているかのような、小さな鳥の姿です。
もちろんこれは私の勝手な感情移入ですが(笑)
ピクシー
2014年07月17日 09:21
先日はからだづくり工房にいらしていただきありがとうございました。そして「精霊たちの休日」を告知してくださって感謝です。版画工房フェンリルのHPへのリンクまで!どうりでここ数日見てくださる方が多いなと思っていたところでした。
私も吉野さんの作品を観ると、切ないような懐かしい気持ちになります。aostaさんの
詩的な文章で、あの吉野さんの不思議な世界観が伝わってきますね。
しっぽ
2014年07月17日 20:32
よく考えてみると 本当のカメレオンを見たこてがあるのかどうか…疑問になってきました。映像の記憶なのかもしれず、わたしには、くるくる回る目ではなく 閉じた瞼の一直線…ホント何を考えているんだろう。鰐もまた!

そう、今度は華厳経のある作品で 倍音は一番近いのです。

2014年07月17日 21:13
◇ピクシーさん

その節はありがとうございました。
こちらからお礼を申し上げなくてはなりませんでしたのに、そのまま日を過ごしてしまい恥ずかしいです。
リンクにつきましても、勝手な判断でしたが、少なくとも、そちらを訪ねてくださる方がいらっしゃるとのことで、ほっといたしました。
考えてみれば、当然かもしれませんが、吉野さんともお知り合いだったのですね。
ピクシーさん、ご主人さま、吉野さんご夫妻には、本当に素敵な刺激をいただいていると感謝しています。
乾いた喉に、するすると新鮮な水がしみ透ってゆくような会話の経験は得難い喜びでもあります。
ゆる体操、また体験したいです(^^♪
2014年07月17日 21:29
◇しっぽさん

カメレオンや蛙、ヤモリといった生き物って本当に可愛いと思います。
中でもカメレオンはコミカルで不思議な動作がなんとも言えず可愛いですよね。

閉じた瞼の一直線…
う~~ん。渋いですね。玄人好みといってもいいかしら。
ワニもよく目を閉じたままじっとしてますね。半眼でうとうとしているような時もなんだかのんびりした風景のような気がします(笑)。

>今度は華厳経のある作品

またまた次のコンサートですか?
ひとつ終わったかとおもえば、また次がある・・・・ これって結構きついですよね。
華厳経につきましては全く無知な私ですが、声明などには豊かな倍音を感じます♪
しっぽ
2014年07月18日 09:26
爬虫類ってとっつきは悪いですが案外かわいい!造形的にもユニークだし。映画に夕方行くので ゴジラ!と言ったら却下(^^ )され岩波の第二候補にいきます。修道院のドキュメンタリーみたいな映画。音が一切ない!
声明と違い お経は地の声みたいですね。日本語の発語にある母音省略を一切せずにやるのは外国語より難しいです。

うちの団の御大はビッグマザーで すぐあちこちからオファー拾ってくるので結果歌いづめのシニア合唱団となっています。もう 私ら只の管ですヾ(≧∇≦)
2014年07月18日 20:33
◇しっぽさん

爬虫類、両生類、可愛いですよね。
確かに造型的にもユニークなものが多いと思います。私はカメレオンや蛙をモチーフにしたアクセサリーがお気に入りです。欧米のアクセサリーには蛙や蛇をデザインしたものが多いのに、日本では人気がないようで残念です。

修道院のドキュメンタリーって、きっと「大いなる沈黙へグランド・シャルトルーズ修道院」の事だと思います。
これは私も絶対見たいと思っている映画です。
ゴジラとは比べるべき作品ではありませんが、「大いなる沈黙へ」はきっと素晴らしい作品だと思います。
最近私が読み返していた本「砂漠の修道院」も素晴らしいエッセイです。砂漠、とあるようにフランスではなくエジプトの修道院。エジプトに伝わったキリスト教(コプト教)の修道士たちの生活を書いたものですが、何度読み返しても深いエッセイです。

>うちの団の御大はビッグマザーで すぐあちこちからオファー拾ってくるので

すばらしい!うらやましい!
ノウハウを教えて頂きたいです(笑)

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