土屋豊 鍛金(たんきん)作品展





5月13日から26日にかけ、去年に引き続いて地元デパートのギャラリーで鍛金作品展が開かれました。


鍛金とは、金属を金づちで叩いて形を作りだしてゆく日本の伝統的な手法のひとつ。
作家の土屋豊は、父方の従兄(いとこ)です。
彼が芸大の彫刻科を卒業して工房を設立し、独り立ちを果たして、東京ステーションギャラリーで初めての個展を開いた時、私は大学に入ったばかりでした。
まだ東京の生活に慣れる前の、あれは何月だったのでしょう。
何だか誇らしげな気持で胸をどきどきさせながら、明るく日が照る歩道を一緒に歩いた記憶があります。
女子高から女子大へと進んだ私にとって、従兄とは言え若い男の人と歩くという経験は初めてのことでしたから(笑)。




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会場に入ってまっさきに目の中に飛び込んできたのがこれ。

中也の帽子?!

思わず心の中で快哉(かいさい)を叫びたくなりました。
光を柔らかく包み込むように緩やかなカーブを描くプリム(縁)が
明と暗にくっきりと鮮やかな境界を引いています。

作者の意図としては、女性の帽子をイメージしたらしいのですが、
私は一人勝手に「中也の帽子」と決めつけていまいました。







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こちらはすっくと伸びたステムがまるで蓮を思わせる花器。
投げ入れられた葉の緑と下降する枝の微妙なバランスが、
この器の魅力を引き立てます。









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これも花器。「花船」という名前がついていました。

まるで木で出来ているかのような暖かい質感。
スタンドの部分と花入れの部分とが別々に使えるようになっています。
まだ固い芍薬のつぼみに、花が開く前の漲るようなエネルギーを感じます。
青い実は梅かしら。

どちらもコロンとした丸い球体であるのに対して、
ただひと筋、放物線を描いて伸びる緑が、
スタンド部分の曲線と花を一つにつなげています。

無造作に植物を束ねたようなスタンドの造形が気に入ってしまった私は、
スタンドをもうひとつ並べて写真を撮ってみました。









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この作品は何かしら。

「○○ちゃんには何に見える?」と聞かれ、
戸惑いながらじっと見つめるうちに、ふっとひとつのイメージが浮かびました。
立ち上がった和ろうそくは、ひとつの象徴。
灯された火が、花びらのように象(かたど)られた金属に反射して、
仄かな光輪のように揺らめいています。

「・・・マリア様?」
「当たり!!」








「金属の扱いは大変だと思われがちだけど、本当は鉄は木や石にくらべたら柔らかくて粘りもある。
たたいたり、伸ばしたり、熱を加えることで自由に扱える魅力的な素材なんだよ。」

扱うのは鉄だけではなく、ステンレスや銅といった金属も、その特性を生かして自在に姿を変えていきます。
また加わった熱の温度によっても、金属の色は変わります。
時には作者の意図しないところで、偶然が思いがけない特別な美しさを作品に与えることもあるのかもしれません。
けれどもその偶然は決して行き当たりばったりの結果ではなく、
考え尽くし、試行錯誤を繰り返した者だけが出会うことのできる「贈り物」としての「偶然」なのではないでしょうか。


「機能的であることは当たり前。
機能的だから美しいと言えば短絡的に過ぎるけど、
美しさにも理由が欲しい。
美しくて機能的なものを作りたい。」



彼の作品には、曲線の持つ暖かさ優美さと直線の持つ潔さが一つになった美しさがあります。
冷たいイメージの金属に温もりを感じます。
そして使い勝手がよく、いろいろな使い方ができる工夫と楽しみがあります。






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器があって花が生きる。
花があるから器が映える。


毎回の作品展で、そのたび花を活けてくださるのは地元上諏訪の華道家の方と伺いました。
器が生き生きと見えるのも、二つとない素晴らしい花があればこそ。
「花と器」、二つで一つの作品と言ってもいいのかも知れません。



暮れなずむ街を後に家路を急ぐ私の胸の中には、あの和ろうそくの光がいつまでも暖かく灯っていました。







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この記事へのコメント

2009年05月28日 06:36
大変ご無沙汰しています。目が洗われるような作品ばかりですね。これでは帰宅時間が遅くなるはずですね。一人占めにしたい作品でもあり、誰かに知らせたい作品ですね。
●帽子の電気スタンド愛嬢にせがまれて作ったような、かぶり方も洒落ています。
●蔓状専用の花器なんて、これものびのびしていますね。
●蓮の若い葉に見立てたものに感じますが、これも花とのコラボレが気持ちが快適です。
●マリア様の灯は夕べの水芭蕉です。この花器を大きな水を張った器にいれて、水表に映ったユラギも見てみたい思いです。
yuri
2009年05月28日 09:11
椴金・・・冷たい鉄素材に温もりが。こういったアートには魅力を感じます。土屋豊さんのHPへ行って見ました!
子供の頃から工作が好きでした。何でもとりあえず作ってみたくなってしまうのは今も変わりません。
帰省時、長谷村の工房へ行って見たいと思います。
きよちゃん
2009年05月28日 10:02
拝見いたしました。 とてもうれしいです。
2009年05月29日 07:30
◇イエローポストさん おはようございます。

>マリア様の灯は夕べの水芭蕉です。

そんな風に感じていただいてとても嬉しいです。
去年に引き続き今回も、気持が優しく安らぐ作品がたくさん展示されていました。器と花とのコラボレーション、光と影の演出など、見てくださったお客様にも共感していただけたようで充実した作品展になったようです。感謝。
2009年05月29日 07:37
◇yuriさん

コメントありがとうございます。
何にでも挑戦するyuriさんは素敵ですね。HPまでご覧くださったとのこと、ありがとうございました。ただ最近は本人は東御市の工房にいることが多いのでおたずねの際は、一度確認の電話を入れてみてください。
実は私も工房を見たことがありません。ご一緒できたらいいですね!

PSです。
去年植えたフィリス・バイドがはじめての花を咲かせました。
アプリコット色した可愛い花です♪
2009年05月29日 07:40
◇きよちゃん

コメント、とても嬉しく拝見いたしました。
昨日はそちらのサイトも拝見させていただき、びっくりしたり喜んだりのaostaでした(笑)。これからもよろしくお願いいたします。
yiri
2009年05月29日 08:17
フィリス・バイド、咲き始めがとっても可愛いバラですね。最近はスィーツのような甘い色のバラに惹かれます。
そちらはバラシーズン到来ですね。こちらは遅咲きが満開。アジサイも咲き出しました。慌しかった5月も終わり・・・咲いてくれた事に感謝して、お礼肥をあげています。
様々な花から季節を告げられる幸せを感じています。。o@(^-^)@o。
2009年05月29日 20:45
◇yiriさん

yuriさんですよね(笑)?
フィリス・バイド、村田バラ園の村田さん一押しのクライミング・ポリアンサです。去年、花フェスタ記念公園で見てどうしても欲しくなって、買ったものです。庭の花を摘んで飾ることができる幸せ、この季節になるといつもそう思います。タージーマッジーのように小さな花束でも、自分が育てたハーブで作れたら素敵ですね。庭は人間と同じ。育てるものであり、同時に自ら育つものですよね。
広すぎる庭をどうするか、頭は痛いですが、少しづつ、自分のできる範囲で楽しみながら「私の庭」を実現したいと思っています。
ドロップス
2009年05月30日 11:49
aostaさん

こんにちわ!

>美しくて機能的なもの・・・ものづくりには全てに言えることですねー
金属だけど温かさが伝わってくる作品です。
私はマリア様のような蝋燭たてが欲しいです。
2009年05月30日 20:50
◇ドロップスさん

こんばんは。
「マリアさまの蝋燭立て」、これには絶対和ろうそくでなければ、という感じがしています。象牙色を帯びた和ろうそくは、色にも形にも、そして融けて流れ落ちる蝋にもどこか潔く、凛とした気品を感じます。このろうそくだからマリア様を連想で来たのではないかと思っています。
2009年11月28日 13:29
aki's STOCKTAKING の秋山東一です。古いエントリーにトラックバックいただき、びっくりしています。
私は科は違いますが、一応、土屋豊さんの芸大の先輩ではあります。彼とは小諸の友人を介して友人となりました。
お元気で活躍されている様子……、お従兄さんとのこと、お会いになったなら、よろしくお伝えください。
2009年11月29日 05:15
◇秋山さま

ご丁寧にご訪問くださいましてありがとうございました。
従兄は彫刻科でしたが、秋山さんは建築科でいらっしゃるのですね。
素人考えで恐縮ですが、彫刻も建築も「立体」の創造と言う意味で共通しているように思います。ともに「空間」のエネルギーを凝縮させ、その場所の空気を変える力を持っているもの、と思っています。
太陽と人との距離を近くし親和性に満ちた関係にする秋山さんのパッシヴ・ソーラーの考え方は、エネルギーの有効活用と言う視点だけでなく、喪われた自然と人との関係をもう一度考え直すという意味でも興味を覚えた次第です。

わたしもステイショナリーが好きです。
10ミリの色鉛筆、気になります(笑)。

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