リチャード3世の謎 / 薔薇戦争の終焉(2)

さて、前回のブログ「ロンドン塔の王子たち」で、幼いエドワード5世に代わって王位を継いだリチャード3世によって30年に亘ったランカスター家との争いはヨーク家の勝利で終わった。
しかしながら、幼い甥たちを亡き者にして手に入れた王位は長続きしなかった。僅か2年後の1485年、リチャード3世は、味方の裏切りによってボズワースの戦いに敗れ、凄惨な死を遂げる。そしてランカスター家のヘンリー・チューダーがヘンリー7世として即位。ここに薔薇戦争は終結し、チューダー朝の歴史が始まる。
皮肉にも、このヘンリー7世の妃となったのはリチャード3世の姪、すなわち幽閉され謎の死を遂げたとされる幼い王子たちの姉であるエリザベス・オブ・ヨークであった。ランカスター系の王とヨーク家の王妃の誕生によって、両家の確執を収めようという、政略結婚だったのかもしれない。ヘンリー7世は24年の間王位を守り、平和裏に息子ヘンリー8世に王位を継承した。めでたしめでたし!

えっ?それで終わりですか???


リチャード3世.jpg
ロンドン ナショナル・ポートレート・ギャラリー リチャード3世の肖像 1590年ころ

※右側に並んでいる背骨が曲がった骨格は、肖像画に描かれているものではありません。詳細は拙ブログ文末でご確認ごください


定説では、自らが王位につくために、ロンドン塔に王位継承者である幼い王子とその弟を幽閉し、手下に命じて枕で二人を窒息死させたと言われているリチャード3世。
シェイクスピアの戯曲「リチャード3世」では、
「腕は萎え、足を引きずり、背中に大きなコブを背負った醜悪な姿」と描写されている。
ヘンリー6世と皇太子エドワード、2人の実兄と幼い甥たち、側近などを次々と殺害して王位を簒奪(さんだつ)した”極悪人"として世に知られるリチャード3世・・・
何だか絵に描いたような悪人ぶりですが。

ここに『時の娘』という一冊の歴史ミステリーがあります。
英国の作家ジョセフィン・ティが1951年に上梓した作品。かなり古い。とは言え、これがまた実によくできたミステリ!
主人公のグラント警部は思わぬ事故で入院を余儀なくされることと相成りました。退屈しのぎに、思い付きで手にした「犯罪者たちの精選集」を読んでいて1枚の肖像画に興味をひかれます。


グラント警部はその肖像画がかのリチャード3世とは気づかぬまま、こう独り言つのですな。

「この男は裁判官か?軍人か?王子か?誰か、非常に責任のある地位にあり、その権威の責務を一身に背負っていた人物だ。あまりにも良心的すぎた人物だ。悩める人。おそらく完全主義者だ。」
    ~小泉喜美子訳「時の娘」ハヤカワ文庫 より~

これが歴史に名高い極悪人、リチャード3世の肖像画とは!
納得がいかない警部は、ベッドの上であまたの歴史書を紐解き、リチャード3世の謎に迫るという設定。
スコットランドヤードの敏腕刑事は、あくまでもプロとしての眼で歴史を検証していくのです。すなわち、①物証を重んじ ②伝聞証拠を排し ➂“ 誰が得をするか ”という視点で。

500年も昔の人物、出来事ゆえ、物証に関してはちと難しいかもしれないが、伝聞についてはどうだろう。
そもそも、醜悪で邪悪な極悪人というステレオタイプのリチャード3世のイメージを決定づけたのは、かのトマス・モアだった。トマス・モアが言うなら間違いはないでしょ?って誰でも思う。
何と言っても、聖トマス・モアですもの。
しか~し! グラント警部も調べてみて初めて知ったんだけど、リチャード3世が死んだとき、トマス・モアはわずか5歳だったんですよ。
ではなぜ、トマス・モアは知りもしないリチャード3世についてそこまで断定的な文章を残せたのか? またまた必死で文献をあたったグラント警部、今度はトマス・モアの大恩人というか育ての親(大司教ジョン・モートン)が、かつてリチャード3世を不倶戴天の敵ともみなすランカスター派の人物だったという事実に気が付いた。
トマス・モアが記したリチャード3世についての記述は、リチャード憎しのジョン・モートンからの聞き語りだったのでした。
ここに至ってグラント警部は考えた。
すなわち。即位はしたものの、ヘンリー7世には王位の継承権という点において瑕疵があった。
ゆえに、意図的にリチャード3世を貶めることで、自らの正当性を主張した。つまりみんながぐるになって、まことしやかにリチャード3世極悪人説を流布したのではなかろうかと。

なるほど、歴史とは常に勝者の側から書かれるもの。
勝者にとって都合の悪い事実は歪曲され、また隠蔽されるものなのです。シェイクスピアの「リチャード3世」も同様、トマス・モアの受け売りに、これでもか!と尾ひれをつけて、天下の極悪人に仕立て、それがゆえに拍手喝采で迎えられた。
そもそも、リチャード3世以外にも、王位継承権を主張する輩はいっぱいいたわけで、先王エドワード4世から護国卿という地位を委任されていた彼が幼い甥たちを殺してまで王位に固執するメリットはない。
すなわち。何の得にもならない殺人をあえて犯す必要はなかったはず。というのがグラント警部の結論なのでした。
そういえばリチャード3世の旗印は白い猪。銘は“Loyaulté Me Lie”(ロワイオテ・ム・リ)
「忠誠がわれを縛る」を意味する古いフランス語だと言う。
果たしてリチャード3世の真実はいずこに。

江戸川乱歩は「学問上の論文のような純粋に推理だけの探偵小説があってもよい。そういう意味で『時の娘』は史学上の研究論文と言ってもよい。とまで言ったそうな。研究論文?こんなに面白い論文なら何冊でも読みたくなります。
現にジョセフィン・ティのこの作品がきっかけで、リチャード3世再評価の動きが高まったのだとか。

ちなみにヘンリー7世の覚えよろしかったトマス・モアは、後のヘンリー8世の時代には、宮廷で最高位の大法官まで上り詰めるのだけれど、ヘンリー8世と言えば、そう、アン・ブーリン!「1000日のアン」!
ヘンリー8世とアンの離婚に最後まで反対したトマス・モアは、ロンドン塔に幽閉された挙句、反逆罪で処刑されました。トマス・モアと言えども、いい時ばかりではない、ということですね。



ところで、「「ロンドン塔の王子たち」ではないかと思われる人骨が発掘されたのは1674年。
そしてついに!このリチャード3世の遺骨も、実に530年の時を経て発掘されたのです。こちらは必見!



リチャード3世、遺骨から浮かび上がる壮絶な最期
https://www.cnn.co.jp/fringe/35053988.html




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この記事へのコメント

風信子
2020年07月03日 17:35
こんにちは。ローレンス・オリヴィエの「リチャード3世」、誰が主演したか忘れてしまいましたが、トマス・モーアを主人公にした「我が命つきるとも」ジュヌヴィエーヴ・ビジョルドがアン・ブーリン役を演じた「1000日のアン」と、ぞろぞろ出てきましたよ。
風信子
2020年07月03日 17:55
「我が命つきるとも」はポール・スコフィールドでした
katananke05
2020年07月03日 21:25
イギリスの歴史は 血で血を洗うような 王位争いが、、と書きながら
日本でも同じ 古事記の時代から 戦国時代〜と 親子や 兄弟で 殺し合い
政権を奪い合いましたね〜
勝利を得たものが 自分の都合良いように
歴史を 書き換えたことは 想像に難くないです〜
明智光秀も 吉良上野介も
本当のところは 優秀なトップでいたかもですね〜 
aosta
2020年07月04日 09:26
◇風信子さん

こんにちは。またお越し下さりありがとうございます。
コメントを拝見し、わくわくしました。オリヴィエの「リチャード3世」、シェイクスピアの戯曲に忠実な映画化でしたね。シェイクスピア俳優としてはオリヴィエよりジョン・ギールガッドが好きな私はクラレンス公を演じたギールガッドが印象的でした。

「1000日のアン」はリチャード・バートンが、そのままヘンリー8世のイメージでぴったり(笑)。ジュヌヴィエーヴ・ビジョルドも百戦錬磨の国王に一歩も引かない駆け引きで、王妃の座を手に入れるアン役がとてもチャーミングでした。衣装も素晴らしかったですね。
決然と死刑場にむかうアン、ロンドン塔の庭(?)でよちよちと歩きはじめるエリザベス・・・エンディングもすばらしかった。また見たくなってしまいます(笑)
aosta
2020年07月04日 09:34
◇風信子さん

再度のコメント、ありがとうございます。
ポール・スコフィールド、そうだったんですね。なぜか主役のトマス・モアよりマーガレット役のスザンナ・ヨークばかりが気になっていた私(笑)。この映画でも、トマス・モアは清廉な人物として描かれていましたっけ。なんと言っても死後に聖別され聖人に列せられた人物ですものね。

もうご存知かもしれませんが、リチャード3世の遺骨が発見されその後のDNA検査で、ベネディクト・カンバーバッチがリチャード3世の末裔だと判明したみたいですよ。
aosta
2020年07月04日 10:04
◇Katanankeさん

コメントありがとうございます(^^♪

そうですよね~。権力欲、って人間の本能なのかしら?いやいや、縄文時代には争いはなかったと言われているし、必ずしも本能ではないのかも。つまりは富の集中→階級社会→権力者の登場、という図式ですかしら。狩猟・採取の生活から、定住して農耕生活が始まったことで富の集中が始まる。「サピエンス全史」はとても面白くて一気に読んでしまいました。おっと、この話始めると長くなっちゃうからやめましょう。

明智光秀と吉良上野介、お二方とも、歴史の中では悪者ですが、光秀も上野介も地元では今でも名君として慕われているんですよね。
私が住んでいる茅野には、このお二人に縁の深いお寺があります。
本能寺の変の直前、明智光秀の堪忍袋の緒が切れた場所、信長が「こんな腐った魚がくえるか!」と懇切に料理した魚を光秀に投げつけたと言われる法華寺です。法華寺は諏訪大社上社の坊の一つなのですが、信長の嫡男信忠が上社をすべて焼き払ったあと、本陣としたのがこの法華寺だったのです。

さらには、この法華寺の裏手、木々の生い茂る山の斜面を登っていくと、そこには吉良上野介の子である吉良義周がひっそりと眠っています。なんでも義親は、討ち入りの際の対応が「仕方不届」だったとして処罰され、吉良家は改易、義親本人は諏訪藩にお預けの身となり、僅か21歳で死去。地元の法華寺に葬られたのでした。

そういえば、織田信長が真田親子と初めて対面したのもこの法華寺だったようです。

いかにも知ったように書きましたが、実は私、先日初めて法華寺を尋ね、こうした歴史を知ったばかりなの(笑)
コロナ騒ぎで遠出はできず、ならば近隣の寺社巡りでも、と思い立ったのがその理由。付け焼刃の知識がこんなところで役立ちました(#^^#)
katananke05
2020年07月06日 10:44
昨夜 録画で溜めてた
「マリーアントワネット」の真実を
フランス製作で みましたが
裁判も 彼女を 死刑にしたいものばかりの
裁判官や 陪審員で固めた 歪んだもので
証拠も示されず ついた弁護人も 前日に用意されて
弁護した、、それも身の安全のために 言葉を選んでの、、言質を捉え
即 牢屋へ しょっぴくという、、
とても歪んだ裁判で 彼女はギロチンにかけられた、、という あの時代には
いっぱいあった 裁判の不公正さを
暴いたものでした、、まあ
戦前の日本でも いえ 戦後の日本でも
歪んだ証拠と裁判で ふとうに刑に処された
人々が多くありですので
批判はできないですけどね〜
aosta
2020年07月07日 11:09
◇katanankeさん

再コメント、嬉しく拝見しました。
マリー・アントワネット!Katanankeさんがご覧になられた「アントワネットの真実」は未見ですが、彼女の人格や生涯が意図的に不当に歪曲されたという意味では、まさにリチャード3世と同じですね。リチャードがチューダー家の正当性を主張するために貶められたように、アントワネットもまた、台頭する市民階級にとって一掃されるべき貴族階級の象徴として、誹謗中傷の的にされた、ということになるのでしょうか。

思い出すたびにぞっとするのが王太子ルイ・シャルルです。父王ルイ16世の処刑後、母のもとから引き離され、僅か10歳で死ぬまで再教育という名の下に、虐待、ネグレクトを受けていた事実。再教育とは、王太子として育てられたシャルルを「良き市民」として叩き直す、という名目で行われた恐るべき仕打ちのことです。飲んだくれで無知な教育係は、シャルルは母親のアントワネットに近親相姦を強要されていたという、でっち上げることまでしたとか。背筋も凍るとは、まさにこのことです。
aosta
2020年07月07日 11:19
◇Katanankeさん

「マリー・アントワネットの真実」という作品はテレビで放映されたのですか?BS?
再放送があれば絶対見ます!
NHKならオンデマンドでみられるかしら。

私が ↑ のコメントで書いたルイ・シャルルと母親との「近親相姦」の一件も、アントワネットの裁判で悪用されたんじゃなかったかしら?
もう何年も前に読んだ「ハプスブルクの子供たち」という本に詳しく書かれていました。
https://www.amazon.co.jp/ハプスブルクの子供たち-ヒストリー・ブック・シリーズ-テア・ライトナー/dp/4403240429

これはお勧めです!
aosta
2020年07月07日 11:20
あれれ?
リンクが変ですね。もう一度!

https://www.amazon.co.jp/ハプスブルクの子供たち-ヒストリー・ブック・シリーズ-テア・ライトナー/dp/4403240429
aosta
2020年07月07日 11:31
◇Katanankeさん

ごめんなさい。やっぱりつながりませんね(ノД`)・゜・。。
ご興味がおありでしたら書名で検索してみてくださいな。私、ブラジルまでハプスブルクの一族が統治してたなんて、この本を読むまで全く知りませんでした。アントワネットの子供たちのその後の人生を思うと、誰も時代や親を選んで生まれることはできない、という当たり前の事実に愕然とします。当たり前のことなんですけどね~。
katananke05
2020年07月07日 21:04
さすが aosta sanは 王子のその後をご存知でしたね〜
靴屋職人だからの 無知で粗野な市民に 王子を預け 洗脳したのですよ〜
わずか8歳(10歳?だったかな)の王子も
自分の身の危うさを わかり
繰り返し 誘導尋問のごとくの質問に 
気にいるような 答えをだんだんするようになり ついに 母親アントワネットとの
おぞましい関係を 認めた、、
と ありました〜
8歳で捕まり 10歳で死んだ、、とあったかしら、、 どこに埋められたかもわからないらしいです〜
録画消してしまったので
Eテレだったか 覚えていません〜
ごめんなさいね〜
aosta
2020年07月08日 10:20
◇Katanankeさん

やっぱり裁判に利用されたんですね。
わずか8歳の子を残虐な方法で洗脳とは!なんてむごい、むごすぎる!!

靴屋に洗脳されている間も、ルイ・シャルルは大好きな母の部屋の前に自分で摘んできた花を置いていた、というエピソードを思い出すと、涙が出てしまう。

無知で粗野な靴屋。絶好の機会とばかりに復讐したんでしょうね。何に対する復讐、というよりやっかみとか恨みとか、およそ俗悪な感情から。遺体も見つかっていないんですね。
そういえば、アン・ブーリンの裁判の時もアンを有罪にするために姦通の罪をでっち上げたりしたんじゃなかったかしら。こういうことって、日常茶飯事だったのね。ほとんど魔女裁判だわ。

Eテレなら、オンデマンドで見られるかもしれませんね。
確認してみます(^^♪