ダリアの庭




毎年夏になると、祖母の庭で大きなダリアの花が咲いた。

丈高く大輪のダリアの花は、松葉ボタンや鳳仙花、百日草といった花たちを見下ろしながら、
夏の日差しに挑むかの如く、ひときわくっきりと鮮やかに咲き誇っていた。
わけても陽が傾き始める時間、紅(くれない)とはかくやと思うほどに花色は燃えたち、
ほかの花々を圧するばかりに輝くのだった。



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バラクラ・イングリッシュガーデンのダリア  ほっそりとした花弁、八重カクタス咲き






「ダリアの花には毒があるから触わるんじゃないよ。」
常々祖母にそう言い聞かされていた幼い私は、いつも遠巻きにその花を眺めていた。
母親が留守をしている間に、お腹を空かせた子供が、おむすびにダリアの葉を巻いて食べて死んだ・・・
という祖母の話は、子供心にも恐ろしくて、どこか悲しかった。
その子は、いったい、いくつだったのだろう。
誰もいない家で、たった一人で死んだのだろうか。
森閑と静まり返った真夏の昼下がり、ダリアが咲き誇る庭。
「その子」がひっそりと畳の上に横たわっている姿が目に見えるような気がした。
そしてダリアの花が美しければ美しいほど、死んだ子供の哀れさが身に染みた。

けれども私が小学校も高学年となる頃には、母もそれまでのように足しげく実家に通うことも少なくなり、
やがてダリアの記憶も、死んだ子供の話も、少しづつ薄らいでいった。


おむすびにダリアの葉を巻く・・・・
改めて考えてみれば、奇妙な話である。
あれは子供たちがむやみにダリアに触れないようにするための作り話だったのだろうか。
祖母は本当にダリアには毒があると信じていたような気がする。
真偽のほどはともかく、あの頃ダリアに毒があるという話は、巷にも衆知の事として流布していたようだ。
不思議に思うのは、毒のある花、という濡れ衣が晴れた今になっても、私の心の中にダリアの花は怖い、
という感覚が残っていることだ。
そう、まるで水底(みなぞこ)に沈んだ病葉(わくらば)のように。






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同じくバラクラ・イングリッシュガーデンで  こちらは赤と白の可愛らしいポンポン咲きのダリア






探しものをしているときに、本来探していたものとは違う、懐かしいものを発見することがある。
古い宮澤賢治全集の中の1冊が実家の本棚から出てきたのもそんなときだ。
旧知の友と再会したときのような嬉しさとともにページを繰るうち、ふとその指先が止まった。
「まなづるとダァリア」。
もしかしたら、私がダリアに判然としない怖れを感じるようになったのは、
祖母の作り話に加え、この物語を読んだことも原因のひとつだったのかもしれない。

話をすれば長くなる。
この「まなづるとダァリア」については、また改めて。




        関連ブログ 「弁慶草」 → http://folli-2.at.webry.info/201409/article_4.html






この記事へのコメント

HT
2015年10月25日 15:45
こんにちは。
子供の頃親や先生から聞かされた話が、今も記憶にあってそういったものを見る度に思い出すことよくあります。それと同時に親や先生も思い出します。普段は全くそんなこと忘れているのに不思議なものですよね。
ダリアはには毒があるという話は私も聞いたことがありますが、そういった+αのお話は付いていませんでしたから、あまり記憶にありません。
歳を取って来て、昔のことが良く思い出されます。母の話もその一つです。
2015年10月26日 07:16
◇HTさん

今朝、我が家では初めての氷点下の朝を迎えました。
庭はうっすらと雪が舞ったかのように、霜で真っ白になり、紅葉と美しいコントラストを描いています。

普段は忘れていることが、まるで水の中から浮かび上がってくるように思い出されることがありますね。同じ時間同じところに居たはずなのに、記憶しているところがまったく違った、という経験もあります。覚えていることがまったく違う( ;∀;)
記憶って本当に不思議です。

HTさんもダリアに毒があると聞いていらっしゃったんですね。
この「ダリア有毒説」は全国的に広まっていたようです。どんな経緯でそんな話になったのか、興味深いです。
+αのお話は、十中八九祖母の作り話ではないかと思っています。
ダリアに毒があると信じていた祖母が、子供を遠ざけようと知恵を絞った結果だと思えば、「ダリアのおむすび」も不思議に懐かしく思えてきました。
ichi
2015年10月26日 08:18
子供の時に聞いたダリアの話面白いですね。
私は喉が渇いた子が、百合のさしてあった花瓶の水を飲んで死んだというはなしを聞かされた記憶があります。ダリアは夏に母と草取りしていた時嗅いだ匂いを覚えています
2015年10月26日 08:38
◇ichiさん

お久しぶりです。
コメントをありがとうございました。

>喉が渇いた子が、百合のさしてあった花瓶の水を飲んで死んだ

なんとこれは「ダリアのおむすび」のバリエーションですね!
百合もダリアも人目を引く美しい花、死んだのはどちらの場合も子供、というところが興味深く思われます。
同じ毒のある植物でも、地味で目立たない花であったなら、こうした「おはなし」は生まれないような気がします。ある意味、「過剰な美しさ」ゆえに、死と結び付けられたのかもしれません。
ところで”百合の挿してあった花瓶の水を飲んで死んだ”というイメージは美しいですね。
勝手な想像ですが、透明なガラスの花瓶、子供の喉を滑り落ちてゆく冷たい水、部屋に満ちる百合の香り・・・・等々、まるでラファエロ前派の絵画のように思えてきます。
ダリアの豪奢、百合の香気には、死(毒)を連想させる妖しい魔のようなものが潜んでいるのかもしれません。
ちなみに庭の百合には、ダリアと同じく毒性はないようです。
2015年10月26日 08:40
そうそう・・・ダリアの話ね~・・この間も書きましたが昔はそんな真偽の程が分からない話ってあったんですね~。昨日ガーデンセンターで自分の背丈よりも大きなダリアの鉢植えが売られていて驚きました。立派な花を付けて堂々と咲く姿は圧巻でした。 ポンポン咲きの紅白の花、愛らしいですね~!
2015年10月26日 09:01
◇ichiさん

追記です。
ダリアの匂い、私も覚えています。
百合や薔薇のような人を魅了する香りというより、キク科の植物特有の少し青っぽい香りだったような気がしますが、香りの記憶は曖昧です。
柔らかくて光沢のある葉っぱも、花と同じような匂いがしたんじゃないかしら。最近は香りの高い品種も出回っているとか。園芸植物の多種多様な品種改良にはいつも驚かされますが、あれもこれもと、いいとこ取りが進めば、それぞれの花が持つ、もしくはその花だけが持つ、固有の魅力が失われて失われてしまうようで残念。
2015年10月26日 13:25
◇mintさん

そうそう、ダリアの話なんです(*^^)v 
mintさんはイチイの木ってご存知ですか?
信州ではミネゾウと呼ばれています。
秋になると赤い小さな実がなると、私を含め、子供たちはよくこの実を食べたものでした。ちょっとぬめりがあって、微かな甘みはあります。
さほど美味しいものではなかったのですが、外遊びししながらひとつふたつと摘んでは口に入れていたものでした。
後で知ったのですが、イチイの実の種って強い毒があるのだとか。
種は食べないといっても、間違えて飲みこんでしまうことだってあるかもしれないのに、当時は誰もイチイの実を食べるなとは言いませんでした。
Wikiによれば「種子を誤って飲み込むと中毒を起こし、量によっては痙攣を起こし、呼吸困難で死亡することがある」そうです。
おそろしや~
毒のないものを毒があるといったり、毒のないものを普通に食べていたり・・・・ 不思議といえば不思議な時代でした(;^ω^)
2015年10月26日 13:35
◇mintさん

危うく書き忘れるところでした(^^ゞ
mintさんより背の高いダリア、もしかして皇帝ダリアかもしれません。
URL添付いたしましたので、確認していただけますか?
成長すると背丈どころか4m近くまで大きくなるそうです。なるほど皇帝という名前にもうなずけますね。ポンポン咲きの赤白ダリアはPが好きな花です。
私はどちらかといえば、カクタス咲の方が好きかな(笑)
katananke05
2015年10月26日 22:08
だぁりあ、、が登場ですね、、

ダリアの 毒の事は初めて聞きますが 
いちいの赤い実のたねに 毒があるのですよね、、
北海道で いちいの赤い実をみたとき
なにげなく 口にいれて 結構甘いよ~と
2~3 食べましたが
あとで 種に毒がある、、ときいて 驚きました~
鳥は食べないのでしょうかね~
さえ
2015年10月26日 22:10
私の祖母も沢山のダリヤを育てていたわ。切り花と言えばダリヤしかなくて、と言うか持ちがよかったんだと思います。でも、最近の花屋で売っているダリヤってちゃちっぽく思うんです。昔のは最も力強い花たちだったと思うのですよ。あの頃の花を見かけたら買いたいと何時も思ってるのですが。
kこの間、ちらっと見たら球根を植えた所から葉が出ていたような⁉
2015年10月26日 22:40
再びです。 イチイ、知ってます~!軽井沢の民宿の庭にあって、赤い実、抓んで食べますけど、種に毒だなんて知りませんでした。小さい赤い実は見ているだけでもかわいいし、自然のクリスマスツリーのオーナメントの様で好きなんですが。種間違って飲み込まなくてよかった~ってヒヤッとしました。 ダリヤね、ありがとうございます。 いえいえ・・皇帝ダリアじゃないんです。 普通の?真っ赤なのとピンクのダリアです。 まあ、あまりにも背が高く驚いちゃいました。 私、150㎝なんですけど、それでもダリヤにしたら大きいですよね~・・
2015年10月27日 06:42
◇katanankeさん

ふふふ(^^♪
katanankeさんでしたらきっと”だぁりあの君”だと思っていました。
今回ダリアについて書きながら、思い出していた本があります。まずはブログ本文にも書いた宮沢賢治の「まなづるとだぁりあ」そして梨木果歩さんの「家守忌憚」、ちょっと変わったところでは大島由美子の「ダリアの帯」など。
ダリア、だりあ、ダァリア、だぁりあ・・・・様々な書き方がありました。
英語・学名では”dahlia”とありますので、響きとしては、”ダァリア、だぁりあ”が近いようです。でも片仮名にするか平仮名を使うかで、イメージが微妙に違う。

katanankeさんはダリア有毒説をご存じなかったのですね。地域差もあるのかもしれませんし、mintさんも私も祖母からダリアには毒がある、と聞かされていますので、世代による認識の違いもあるのではないかとも考えました。調べてみると面白いかもしれません。なんだか興味がわいてきました(笑)

たぶん鳥はいちいの実を食べると思います。
でも人間とは消化器官の作りが違うから、消化されないまま糞と一緒に丸ごと体外に排泄されるのだと思います。人間だって丸呑みしちゃえば、う○ちと一緒に出てくるから大丈夫、という気もしますが、万が一ってこともあるんでしょうね。いちいに限りませんか、鳥に食べられることで種を遠くに運ぶ植物も多いみたいですよ。
2015年10月27日 07:02
◇さえさん

おはようございます。
さえさんのお祖母様もダリアを育てていらっしゃったのですね。
あのころってダリアが人気だったのかしら。
さえさん、ダリアの毒についてなにかご存知のことがありましたら、ぜひ教えてください。

>最近の花屋で売っているダリヤってちゃちっぽく思うんです

園芸品種の花に品種改良はつきもの。改良を重ねることで、その花が持っていた本来の魅力が失われてしまうことだって少なくないと思います。豪華なダリアの花のもう一つの魅力は、さえさんがおっしゃるようにその強靭さにもあったのでしょう。確かに豪華でいてどこか野趣のある昔のダリアは見かけなくなりました。品種改良された現在のダリアはすっかり優等生。毒のある、なしはさておいても、しっかり「毒気を抜かれて」しまったようです(^^ゞ
2015年10月27日 07:23
◇mintさん

再コメント、ありがとうございます♪

イチイ、ご存じだったんですね!
そうなんです。あのかわいらしい赤い実には強い毒があるんですって!
私も初めて聞いた時はびっくりしました。だって、当たりまえのおやつのように食べていたたんですよ(笑) mintさんも私も、無事でよかったよかった(*^^)v

ダリアは皇帝ダリアではなかったんですね。
最近のダリアはどんどん品種改良されて、今まで見たことのないようなダリアが増えているんですね。バラから始まったガーデニング・ブームですが、波はバラからクリスマス・ローズ、そして今度はダリアでしょうか。ブームになると、信じられないお値段が付くものもあり、これまたびっくりです。
S。
2015年10月27日 07:29
そう言えば。
我が家の裏庭では穏やかな日差しの下で、鈴蘭が朱色の可愛らしい実を付けています。けれども。。。

ネーデルランドの画家による静物画にも鈴蘭が描かれていたような、微かな記憶が過ぎります。絵画のモチーフとしても用いられた花々の背景に込められた物語りを、また探してみたくなります。
2015年10月27日 21:30
◇S。さん

コメントをいただきありがとうございました!
秋の日差しに映える鈴蘭の赤い実は可愛らしいですね。
けれども・・・・あの愛らしい鈴蘭は有毒植物でもあるのでした。
ネーデルランド絵画に描かれている鈴蘭の花は、memento mori(死を記憶せよ)のメタファなのでしょう。西洋絵画の中に用いられる薔薇については若桑みどりさんの「薔薇のイコノロジー」が有名ですよね。、薔薇に限らず、足元にひっそりと描かれている小さな野の花にまで様々な意味が込められていることを考えると、『絵画を読む』というもう一つの楽しみに出合えるような気がします。
「絵画のモチーフとしても用いられた花々の背景に込められた物語りを、また探してみたくなります。」というS。さん。私もそのお言葉にまったく同感です(^^♪

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