ゲラン 「 ミツコ 」 薔薇のつぼみ
Mitsouko(ミツコ )、ヴィンテージボトル「薔薇のつぼみ」。
多分1950年代末から60年代のもの。
第一次世界大戦が終結した翌年の1919年、ゲランから発売された香水ミツコは、ゲランを代表する香りであると同時に香水の歴史の中でも、ひときわ大きな輝きを放つ名香のひとつです。
日本の女性の名前「ミツコ」が冠された由来として、伯爵夫人クーデン・ホーフ・光子に因んだという説と、当時のベストセラーで仏人作家クロード・ファーレルの小説「ラ・バタイユ」の主人公に因んだというふたつの説があります。
ジャック・ゲラン自身、ファーレルと親交があり、この小説の主人公ミツコに因んで命名したことを認めています。
ファーレルの小説が、当時ウィーン社交界の華として知られていたクーデンホーフ光子にインスパイアされて書かれたという可能性は大きいと思われますが、一方で、ゲラン本人の社交界での交友関係を見れば、直接・間接を問わず、ミツコを知っていたであろうと考えることは自然であり、この香水には二人のミツコの面影が投影されていると考えても、あながち間違いではないように思います。
" Mitsouko " 「ミツコ」 PARFUM 15ml ( Rosebud-shaped stppper)
作出 : 1919年 ゲラン 調香 : ジャック・ゲラン ボトルデザイン : バカラ
香調 : シプレ・フローラル
< トップ ・ノート > ベルガモット、(レモン、マンダリン、ネロリ)
< ミドル ・ノート > ジャスミン、ローズ、ピーチ(クローヴ、イランイラン)
< ラスト ・ノート > オークモス、ペッパー、シナモン、ベチバー(ベンゾイン)
「薔薇のつぼみ」という名前は、薔薇の蕾を模したストッパーの形から来ています。
女性的で優美な曲線が流れるようにデザインされたボトル。
フロストガラスを透過する光は、ほのかに、柔らかい。
ボトルのネック分部に巻かれたた金線の輝きは、経年によって鈍くななりましたが、揮発によって濃縮された香水は琥珀色にまどろんでいます。
香りの劣化は、香水にとっては逃れられない運命のようなもの。
ミツコをはじめとする歴史的な名香のほとんどに、天然香料が使われています。
天然由来のものであるがゆえに、香りの成分の多くは時間の経過とともに揮発し、変化してゆきます。
保存状況によっては、発売当初の香りとは全く別物になってしまうことも少なくないでしょう。
香りも生き物と思えば、経年変化を含めて私の偏愛の対象なのですが、逆にいえば、発売当初の香りは想像の中にしか存在しないといえるのかもしれません。
例えばこの「ばらのつぼみ」は今から50年以上前のものです。
恐る恐る開封してみましたら、いきなりシプレ!
現行品の軽やかなシトラスとは全く異なる香り立ちです。
むしろシトラス系の香りはどこかに飛んでしまい、奥ゆかしいベチバーがゆるゆると開いていきます。
インド原産のベチバーの精油は、年数を経ることで熟成した深みのある香りになると言われています。
50年という時間の中で、ゆっくりと熟成した香りが目を覚ました瞬間。
好き嫌いはあるかもしれませんが、もともとシプレ好きの私にとって、嬉しい変化です。
若いころは、ちょっと苦手だったピーチ系の甘さも、こっくりとたゆたうように品良くなじんでいます。
ヨーロッパの人々にとってエキゾチックで神秘的なシプレが香る「ミツコ」は、遠い極東の女性のイメージそのものだったのかもしれません。
ベルガモットやオークモスを基調とするシプレ系の香りは、独特の個性と気品を合わせもっています。
オークモスとはその名前の通り、オーク(樫)の樹につく苔の一種。
奥深い森の中に分け入ったときに感じる、様々な草木の緑や枯れ葉の香り、湿った土の暖かな匂いなどが混然一体となった、神秘的でしんと静まった香り・・・それがシプレのイメージです。
甘く華やかな花の香りや、清々しいシトラスの香りと一緒に使う事で、香りにしっとりとした陰影と深みが加わります。
ボトルとは対照的に、きらきらと光を反射する透明度の高いガラス栓のネック部分には、レジンが巻かれています。
ガラス栓にレジンを巻くこのタイプは、1955~60年の間の短い期間しか販売されなかったそうです。
1970年代には、この美しいガラス栓そのものがプラスチックになり、さらに8年後にはプラスチックのスクリューキャップに変更されました。
一見同じように透明ではありますが、ガラスとプラスチックとでは質感も輝きも全く違うものです。
加えてスクリューキャップとは、あまりにも味気なく感じますが、私の手元のボトルの年代が特定できたのは、こうしたデザインの変化があったおかげであり、ある意味で、謎解きのような楽しみもありました。
50年前のミツコはしんと静かにゆかしく香ります。
(ベルガモットやレモンなどシトラスはほとんど感じられません)
クローヴやシナモンなどに由来するスパイシーなアクセントが加わった凛として芯のある佇まいには、美しく着付けられた和服にも通じる品格を感じます。
こうした格調高い香水が似合うシーンが失われつつある現代だからこそ、大切にしたいと思う香りです。
★関連ブログ ミツコ 「アンブレラ」 → http://folli-2.at.webry.info/201504/article_11.html





この記事へのコメント
香水のことはトンとわからないですが、この器の蓋が素敵ですねぇ。女性の使われているものってこう云う所がとてもお洒落に出来ていますよね。
本当に色々なことをよくご存じですよね。感心してしまいます。じっくりと読ませていただきましたが、ただただへぇーって感心してしまうばかりです。素晴らしいですね。
コメントありがとうございます♪
>夜間飛行同様、ミツコも祖母のお気に入りの香水でした。
ゲランがお好きだったと伺うだけで、mintさんのお祖母さまへのイメージが広がりました。きっとお洒落で素敵な方だったんでしょうね。
私の祖母の香りは黒龍(コクリウ)の白粉と白檀、そして椿油の香りでした(;^ω^)
私の香り好きは、祖母の鏡台から始まったのだと思います。
香水瓶って、デザインも美しいものが多いですし、香りって使っていた人の思い出につながるものでもありますが、数が多いと結構場所をとりますから、いつまでも取っておくということは難しいかもしれませんね。
私も過去の引っ越しのたび、香水瓶を処分したり、差し上げたりしてきたことを(いまさらですが)失敗した!と悔やむことがあります。香水の箱には、重要な情報が詰まっているということを知ったのも、こうして香水について調べ始めてからでした。箱こそ無造作にぽいぽい捨てていたのでした(/ω\) 今思えば、なんてもったいない!自ら大切な手がかりを捨てていたようなものです。無念じゃぁ~。
おはようございます。
私にとって香水も香水瓶も同じように好きなので、この瓶の栓(蓋)の形を素敵と言っていただき、とてもうれしいです。ほんとうに「バラのつぼみ」の形ですよね。
数ある香水瓶の中でも、この「ばらのつぼみ」が一番好きかもしれません。
発売当時の「ミツコ」は資材不足のために、ほかの香水と同じボトルにミツコのラベルを貼って発売されたようです。こんなに美しいもの、素晴らしい香りが大戦後の荒廃した時代に誕生したということが奇跡のように思えます。いえ、むしろそうした時代だからこそ、人は美しいものを求めたのかもしれませんね。
>本当に色々なことをよくご存じですよね。
まあ、HTさん、毎回付け焼刃で何とか形にしている状態なのです。
調べてもすぐ忘れてしまいますが、こうしてブログに書くと安心なので(;^ω^)
自然にあるものに秘められている可能性を引き出すことの素晴らしさ。
いま庭にある香りはヒヤシンスと沈丁花。香水として取り出しやすい成分、取り出しにくい成分というのもあるかもしれません。また精製したあとで香りが持続しやすい持続しにくいといった事もあるのでしょう。美しい瓶に詰められる香りもまた技術の成果。選び抜かれた花々のたおやかな君臨とも思われます。
おはようございます。
香りの世界は本当に奥が深いですね。
植物の香りだけでなく、動物性の香りもあって、それらをさまざまに組み合わせることによって、素晴らしい香りが生みだす”調香”という技の不思議を思います。
実在しない香りのイメージを、香水という形にする調香師の仕事はもはや芸術ですね。
形のないものという意味では香りは音にも似ています。
どんなに心揺さぶられても、記憶の中にしか残らないと言う点でも香水は音楽に似ています。そしてどちらも「聴く」と言います。
香道では文字通り「聞香」というそうです。
目に見えないものを感じるために、心を鎮め心を傾けて「聴く」という行為は香りの世界でも同じなのでしょう。
沈丁花の青くて鋭角的な香りは、私は子供だったころの庭の記憶、幼いものだけが知る特別の喜びの記憶を呼び覚ましてくれます。