消えがてのうた part 2

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zoom RSS アノニム・コンサート / アノニムと時代

<<   作成日時 : 2015/11/09 10:57   >>

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「この家のこの部屋で、わたしら 結婚式を挙げたんですよ。」


朝から降り続いていた冷たい雨も小康状態になって、薄闇が降りてきたころから、
2人、3人と、お客様が連れだって来場になりました。
私たちの音合わせも終わり、カフェ・コーナーでは休憩時間にお出しするお茶の準備も整ったころには
日もとっぷりと暮れ、ギャラリーにも暖かい灯が点りました。
さあ、コンサートが始まります。


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リハーサル中のP氏



今日のお客様は、4歳のお子さまから、腰の曲がりかけた90歳のご夫婦まで。
今までのコンサートの中でも一番広い年齢層です。
プログラムは今回で3回目となる「ノックグラフトンの昔話」。
「こぶとり」をテーマにしたアイルランドと日本の民話です。
アイルランドのこぶとり物語「ノックグラフトンの昔話」では、コブを取ってくれるのは、
古い塚に住んでいる妖精の小人でしたが日本の「こぶとりじいさん」で同じ役目を果たすのは鬼。
妖精の小人と鬼の違いこそあれ、それぞれのお話にはコブで悩む登場人物がふたり登場します。
「ノックグラフトン」ではラスモアとジャック・マデン。
「こぶとりじいさん」では名前こそ分かりませんがやはり二人のお爺さんが出てきます。
コブを取ってもらう経緯も、その後の展開も良く似たこのお話を、一緒に朗読することで、
「旅するものがたり」の魅力を伝えたいという気持ちがありました。

こじんまりとした会場いっぱいに、ある方は座布団で、またある方はソファーにと、
それぞれ寛いで、熱心に耳を傾けてくださる。
お客様の想い、私たちの想いがひとつになって、熱く暖かい磁場の様なものが広がってゆきます。


物語を朗読しながら、気になっていたのは、高齢のあのご夫婦でした。
テーマこそおなじみの「こぶとり」ですが、ひとつは外国のお話、馴染みのない名前や地名が登場します。
90を過ぎたお二人に楽しんでいただけるでしょうか。

・・・・・・・・・・・・・・

私の心配は全くの杞憂に終わりました。
御夫婦はお二人とも、時に表情を崩しながら、身を乗り出して聴き入ってくださったのです。
朗読に続くリコーダー演奏も、首を振るように何度もうなずきながら、最後まで楽しんでくださいました。



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タピストリーや小物はメキシコ在住の織物作家、村井由美子さんの作品




コンサートが終わり、お二人にお礼の気持ちを伝えようと声をかけた私に返ってきたのは
想像もしていなかった言葉でした。

「ここは、わたしらが結婚式を挙げた家なんですよ。だから懐かしくてねぇ。
この年になって、この場所で楽しいお話と素晴らしい音楽を聴くことができるなんて、思いもしなかった。
ありがたいことです。」

ありがたい?!
ありがたいのは、私たちです。
なんだか急に胸の中に熱いものがこみ上げてきました。

「子供のころは、よくこの部屋で遊んでは叱られたもんじゃった。ほれ、あの頃の落書きまで残っている。
壁の煤けたところは、昔、養蚕ををやっていたころの名残りじゃ。」

おじいさんの言葉に、思わずまじまじと、壁を眺めてしまった私。
壁の落書きも、まだらに煤けた色も、そのまま残して、この家は再生されていました。
それはギャラリーオーナーのAさんが、この家を過ぎて行った時間、忘れられていた時代を、我が事のように、
大切に思われたからこそ可能となった「再生」であったのです。

「今日はほんとうにいい日だった。いいコンサートじゃった。」
お二人は縁側で一緒に長靴を履くと、雨あがりの暗い夜道を、ぽくぽくと仲良く帰ってゆかれました。





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      アノニム・カフェ 今日のメニューは温かいココアにコーヒー、はと麦茶。そして大きなクッキー





改めてオーナーのAさんに確かめてみると、この家は140年ほど前に建てられたものだそうです。
モダンな展示に惑わされ、昭和中期の民家かな、などと勝手に思っていた私はブッ飛ばされた思いです。
私の眼は節穴じゃぁ!
140年前・・・・
おそらくはこの小さな集落の中でも、裕福なお宅であったのでしょう。
もしかしたら庄屋さんの家だったのかもしれません。
確かに床の間や天袋、欄間や障子には書院造ならではの趣があります。
桟や表具に使われている金具の凝った意匠は140年前の職人さんたちの技、美意識だったのですね。
この家で育ち、結婚式を挙げ、子供たちが生まれ、巣立っていった。そして戦争があった。
そうした営みをこの家はずっと見守ってきたのです。
古民家再生と言えば、聞こえはいいですが、その実、外観だけそのままで家の歴史はどこかに追いやられたままの再生も少なくない中で、このアノニムは140年と言う歴史に繋がり、今なお「生きている」。
家の歴史は、記憶そのものなのです。
私は言葉を失うほど感動してしまいました。


この空間だからこそ、あんなにも幅広い年齢層の客様が来て下さった、そんな気がします。
この場所だから、あんなにも気持ちが通い合う温かいコンサートになった、そう思うのです。





織物作家、村井由美子さんの作品展「メキシカンタペストリーと手織り小物展」
アノニムで開催中です。
http://anonymgallery.blogspot.jp/2015/11/tapetelana116fri-24tue.html
入場無料。お出かけください!





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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
築140年の建物でコンサートなんて素敵ですね。そこで昔結婚式をされた老夫婦がコンサートを危機に来てくれているなんて、ますます素敵ですよね。とてもホンワカしたムードが伝わってきます。綺麗に整然とされたところでのコンサートもいいですが、こうしたところで心が触れ合うコンサートはもっといいですね。これからもこんなコンサートを続けられてくださいね。
HT
2015/11/09 16:59
◇HTさん

おはようございます。
アノニムで結婚式をされたという御夫婦が仲良く並んでソファに腰掛けている様子はなんだか愛らしいお雛様のようでした。多分お二人が結婚された時は、床の間の前に金屏風が立て掛けられ、御座敷にはずらりと御膳が並んで親戚の人や近所の人たちがにぎやかに歓談されていたんだろうな、っていったんは思ったのですが、お歳からすれば、戦争が終わって間もない時代の結婚式だったのかもしれないと思いなおしました。
農村とは言え、物資の乏しい時代、働き手のいない時代・・・・
にこにこと幸せそうな笑顔のお二人の過ぎ来し方にはさまざまな御苦労があったでしょうが、今こうしてコンサートを楽しんでいて下さる。アノニムと言う場所があればこそ実現した不思議なご縁に、本当に感動しました。
aosta
2015/11/10 08:53
アノ二ム、、詠み人しらず? 匿名?

140年の時を 持ち続けている 家ですか、、
霊、、スピリットが いっぱいつまった 濃密で
豊穣な空気だったでしょう?
音色が まったりと ゆっくりと 熟成発酵していくような、、
カタナンケ
2015/11/11 18:02
◇カタナンケさん

「アノニム」ってとても良いネーミングだと思います。
これは私の勝手な想像だけれど、まだ世間に名前を知られていない作家さんやその作品にスポットを当てたい、というオーナーの気持ちがこもった名前の様な気がします。
「当たり前」に慣れた私たちの生活の中に、そっと置かれた小さなものたちにも、もしかしたら名前はないかもしれませんが、それらの存在に気がついた時、それまでの日常が今までとは違って見えてくる。アノニムという名前にはそんなオーナーの気持ちが込められているような気がします。

もう腰も曲がりかけた御夫婦でしたが、お二人がそろってお元気ということが凄いです。私たちのコンサートを聴いて下さる時の眼なんか、煌々としているんですもの!
休憩時間に飲み物を勧めると「いや、わしらはこのすぐ近くに住んどりますから、お茶は家に帰って飲みます。」って。入場料には飲み物とお菓子代が含まれてるから御遠慮なく、って説明しても、丁寧にお断りになられる。なんかもうこちらがたじたじです。
なんか気概を感じさせるお二人でした。この御夫婦に喜んでいただけて本当に良かったです。
aosta
2015/11/12 08:58

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