消えがてのうた part 2

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zoom RSS 耳の中の緑の帆 (苺ちゃんのおはなし)

<<   作成日時 : 2010/07/05 06:56   >>

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さて。
クリちゃんには苺ちゃんという妹がいます。

クリちゃんがお母さんに横抱きにされるようにしてお医者さんに連れて行かれた日、
苺ちゃんは家で一人でお留守番をしていました。
本当は苺ちゃんだって、一緒に行きたかったのですが、お母さんの必死の勢いに怖れをなしただけでなく、
以前連れて行かれたことがある耳鼻科の雰囲気を思い出して、大人しく待っていることにしたのです。

幼稚園に入ったばかりの頃、苺ちゃんは何回も「ジビカ」に通ったことがありました。
「チュージエン」という病名の不思議な響きと耳の奥のツーンとした痛みを、苺ちゃんは今でも良く覚えています。
でも苺ちゃんが一番怖かったのは、お医者さんのおでこでピカピカ光っていた大きくてまんまるい鏡でした。
黒い幅広のベルトでお医者さんので頭にくっついていたそれは、何だか大きな目玉のように見えたからです。
おまけに診察室の中は、苺ちゃんの知らない不思議な匂いがしました。
お行儀よく並べられたいろんな色の小さなガラス瓶には一体何が入っているのか、考えるだけで怖いような気がしました。
そんなわけで、苺ちゃんは「ジビカ」と聞いただけて足がすくんでしまったのです。




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苺ちゃんだってお兄ちゃんの耳の中から顔を出した緑色の葉っぱが、とても気になっていたのですが、お母さんと違っていたのは、その葉っぱがお兄ちゃんに良く似合うと思っていたことでした。
苺ちゃんは、葉っぱがどうなるのか心配でなりませんでした。
半日ほどして「ジビカ」から帰ってきたお兄ちゃんの耳には、もうあの緑色の葉っぱは揺れていませんでした。
苺ちゃんは少しがっかりしました。
お兄ちゃんの耳から、ひょろひょろ伸びていた葉っぱは、可愛らしくて柔らかそうでしたし、苺ちゃんも葉っぱがどんなお話をするのか聞いてみたかったからです。
でもお兄ちゃんとお話をするという緑の葉っぱは、庭に植えられてからも、苺ちゃんには何も話しかけてきませんでした。


ある日の午後、苺ちゃんはいつもと違う道を通って学校から帰ってきました。
そう、去年の春、苺ちゃんも小学生になったのです。
朝から降り続いていた雨が上がって、空気はまるで磨き上げられたように透明です。
花も木も初めて見るような生き生きとしたそぶりでお日様を見上げています。
苺ちゃんは、道の曲がり角に来るたびに、角の向こうには何か特別の出来事が待っているような気がして、どきどきしました。
そんな風にしていくつも曲がり角を曲がって行くうちに、苺ちゃんはたくさんの樹が繁った庭の前に出ていました。

「あれ?ここ知ってる!」
庭に沿った低い生垣をたどっていくと、見覚えのある古い記憶にある看板が出てきました。
チュージエンが治るまで、何回もお母さんと通ったあの病院です。
でも雨が上がったばかりのその日、病院の厭な記憶も忘れるくらい、お日さまはとびっきりピカピカに輝き庭はいいにおいがしていました。
苺ちゃんは思わず鼻をくんくんさせました。
木の葉に残っている雨の雫が、まるで何か合図しているのように、風が吹くたび、きらきらと瞬いています。
苺ちゃんは庭に誘われたような気がして、生垣の隙間からこっそりと中に忍び込みました。

気が付くと、庭の隅っこで一人の男の人が小さな樹の前にしゃがんでいます。
あの時のお医者さんです!
でも今日は、あの変な目玉がついていませんでしたから、お医者さんは違う人のように優しく見えました。
黙って庭に入り込んでしまっただことを、ちょっぴり恥ずかしく思った苺ちゃんはおっかなびっくり声をかけました。
「こんにちは。黙ってはいってきてごめんなさい。たくさんの樹があって森みたいですね。」
お医者さんは、びっくりして顔をあげました。
けれども、緊張して一本の棒のように立っている苺ちゃんを見ると、にっこり笑いました。
丸い眼鏡をかけたお医者さんは、土がついた手をぱんぱんとたたきながら、よっこらしょと立ち上がりました。
「そうか。おちびちゃんには庭の声が聞えたんだね。」
「庭の声?」
「そうさ。こんなにいいお天気の日には樹も花も誰かとおしゃべりがしたくて一生懸命呼びかけるんだ。
でも、ほとんどの人はその声に気がつかない。
心に耳がついている人は、植物の声が聞えるだけじゃないんだ。お喋りだって出来るのさ。
私は耳のお医者さんだからね、心の耳のこともよくわかるんだよ。」

お医者さんと苺ちゃんは、クリちゃんの耳の中から生えてきた葉っぱのことで、いろいろお喋りをするうちに、
すっかり仲良しになってしまいました。
ふと気がつけば、知らないうちにずいぶん時間が経っています。
「ごめんなさい。もう帰らなくちゃ。」苺ちゃんが言いました。
「じゃあね、苺ちゃん。いつでも遊びにおいで。」
お医者さんの声に手を振りながら苺ちゃんも言いました。
「じゃあ、またね。先生!」




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そんなことがあってから、苺ちゃんはときどき、先生の庭に遊びに行くようになりました。

「花だけじゃないんだよ。木にしても草にしても、まず名前を覚えることだよ。
苺ちゃんだって名前を呼ばれたら嬉しいだろう?名前を知るってことが、友達のはじまりだ。
名前で呼んだら、人間だって植物だって、大勢の中の特別の一人、たくさんの中の大切な一本になる。
そうだなあ、言ってみれば名前ってのは、魔法の呪文みたいなもんだな。」
苺ちゃんはコクンとうなずきました。
そしてこっそり、お兄ちゃんの耳から生えてきたあの葉っぱに名前を付けてあげようと思いました。

もちろん、お兄ちゃんはお兄ちゃんで、とっくの昔にあの樹に名前をつけているかもしれません。
でも名前がふたつもあるなんて素敵だわ、と苺ちゃんは思いました。
樹はそのどちらの名前にも、さわさわと笑うように葉っぱを鳴らしながら応えてくれるでしょう。





☆「森の中の緑の帆」 クリちゃんのおはなし → http://folli-2.at.webry.info/201006/article_12.html


クリちゃんの耳の中で小さな種が発芽していた、という話を聞いた時、
ちっちゃな「苺ちゃん」はどんな反応をするかしら。
そんなふうに考えながら、子供たちとの小さな思い出のひとかけら、ひとかけらを拾い集めてみたら
こんなお話が生まれました。




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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
aostaさん、おはようございます。
子どもが物事を捉えるときの新鮮さが伝わってきました。
読むうちに、お子様と二重写しのような感じがしました。
当方の子どものことで恐縮ですが、耳鼻科で長男は治療を拒否。「こんな子は見れない」と医者にも見放されたことがあります。ところが、花巻市の耳鼻科に行ったとき、子どもはすこしも嫌がらず痛がらず喜んで通うようになりました。医師批判ではありませんが、医療も技術、と思ったものでした。この童話を読み、もしかすれば、あまり相性のよくない某耳鼻科のすべてが子どもにとっては恐怖だったのかもしれません。いまは剛胆になりましたけど。そういえば、この息子、こんどは長野に旅行に行くと言ってました。長野のどこに行くつもりやら。若いうちにそちこち見聞しようと思い立ったようです。会社の同僚となようですが。
子どもの気持がよく伝わってきました。もしかすれば、これってaostaさんの子ども時代でもあるのかなと思いましたが。いつかわたしの書いた童話はもう引っ込めたい。
願わくは、こんな童話の中に暮したいですね。
bunbun
2010/07/05 11:08
今晩は。
いやいや、立派な続編です、クリちゃんのお話と比べても、全然遜色ないです。このお話ひょっとしたらずっと続くのかも知れませんね、aostaさんの胸の中には、もうイメージがあるのかも?
harukaeto
2010/07/05 20:50
素敵な物語ですね。
私は、このジビカの丸い眼鏡の男の人とP氏の面影が重なりました。
そして、苺ちゃんの純粋さにaostaさんご自身の面影が重なりました。
是非是非、ご本にしていただきたいと思います。挿絵のイメージも浮かんでいるのですが、残念ながらその名前を失念していて・・・最近多いことなんですが(笑)。
alex
2010/07/05 21:37
◇bunbunさん

おはようございます。
苺ちゃんのおはなし、楽しんでくださってありがとうございます。

>お子様と二重写しのような感じがしました。

長女が小さかったころ中耳炎で何回も耳鼻科に通院したことがありました。夜遅くになって急に痛い痛いと泣きだして・・・
この時のことをふと思い出して苺ちゃんのエピソードにしてしまいました(笑)。
子供の思い出と私の記憶に、気ままな想像の粉を振りかけて出来上がった物語です。

息子さんがこちらまでいらっしゃるのですね?
思い出多い良き旅となりますことを願っております。
aosta
2010/07/06 05:08
◇harukaetoさん

おはようございます。
クリちゃんのお話を作った時から、苺ちゃんのことが気になっていました。
クリちゃんの場合は、素敵なエピソードがあったので、それを自由にふくらませることができたのですが、苺ちゃんのお話は何もないところから始めなくてはなりませんでした。
二つのおはなしが、自然に一つになってほしいと思っていましたので、harukaetoさんのお言葉にほっといたしました(笑)。

>このお話ひょっとしたらずっと続くのかも知れませんね

そんなことができたら素敵なのですが♪
「おはなし」は私の中にあるのではなく、向こうからやってくるものなので待つことしかできません(笑)。少なくともクリちゃんだけのおはなしには留まらず苺ちゃんも登場したことで、二人は木樹の周りでにぎやかにお喋りをすることができそうです。
aosta
2010/07/06 05:17
◇alexさん
 コメントありがとうございました。

>このジビカの丸い眼鏡の男の人とP氏の面影が重なりました。

当たり!です。
少なくとも外見のイメージや雰囲気はP氏から勝手に借りてきました(笑)。
alexさんはご存じないかもしれませんが、昔長男が大好きだったバスケットの漫画「スラム・ダンク」に出てくる安西先生のイメージもダブってます(笑)。

苺ちゃんの中には、いろんな女の子がいます。
ただ不思議なのは、クリちゃんも苺ちゃんも私の頭の中の人物なのに、ずいぶんはっきりとした人格を持っているみたいです。確たるストーリーも定まらないまま、最初の一行をキーインした後は、苺ちゃんたちがお話の行方を教えてくれました。

>是非是非、ご本にしていただきたいと思います。

ありがとうございます。
でもそんなことは夢のまた夢・・・(笑)。
昔ながらガリ版の手作り冊子の雰囲気なら可能かしら?
今はPCでもっとスマートに編集できるのかもしれませんが、そんな技術もありません。
こうしてネットで読んで頂けるだけ、ありがたいことです。
aosta
2010/07/06 08:18
こんにちょは!苺ちゃんのお話もワクワクしながら読みました♪
宇宙から、ストーリーが降ってくるといいですね。
これからどんなお話になるのか、なんだか楽しみです。
木に聴診器をあてると、ドクドク鼓動がするらしいですね。

わたしも明日、『ジビカ』に行ってまいります!
ちょろえ♪
2010/07/07 18:53
◇ちょろえ♪ちゃん

こんにちょは!!
苺ちゃんって、いい子でしょう?(笑)
おはなしが勝手にふくらんでくれればいいんですけど、いつ降ってくるのかわからないし。
個人的にはクマ先生のキャラクターが気にいっています。この先生の言葉は私が用意したというより、勝手に先生がしゃべりだしたと言う感じです。

>木に聴診器をあてると、ドクドク鼓動がするらしいですね。

導管が水を吸い上げる音なんですってね。
植物のチカラ、植物のエネルギーの源は水なんですね。
そして地球は「水の惑星」。水の音は地球の音かもしれません。

眼科ではなく「ジビカ」ですか(笑)?
お大事に!
aosta
2010/07/08 06:14
時を越えて、またまたこちらにお邪魔します。

苺ちゃんのお話しもステキ。可愛らしい苺ちゃん!幼い子供の感性がよく書かれていると思います。もしかしたら苺ちゃん、お兄ちゃんのお耳から葉っぱがのぞいていた頃、ひとりの時、たびたびこっそり鏡で自分のお耳を確かめていたかもしれませんね。わたしの耳にも葉っぱがはえていたらどうしよう、ちょっとは嬉しいけど、やっぱりコワイ、と思ったかな?私にも葉っぱがお話ししてくれないかなあ、と思ったでしょうね。でも「ジビカ」が大嫌いだったから、葉っぱまではえたらやはりこわかったでしょうね!ほんのちょっとは羨ましい事だったことでしょう。
<こんなにいいお天気の日には樹も花も誰かとおしゃべりがしたくて一生懸命呼びかけるんだ。
でも、ほとんどの人はその声に気がつかない。
心に耳がついている人は、植物の声が聞えるだけじゃないんだ。お喋りだって出来るのさ。>
大人の私の胸にもすーっと素直に入って来ました。そうよね、そうよね、と思いました。今日は雨。明日は晴れ。小さな庭の植物たちは今とても忙しそうです。喜びが伝わってくるようです!

すてきな時間を頂きました。ありがとうございました。

また、この時期のブログを拝読し、P氏の大変でいらしたご様子に触れました。乗り越えられての今のご活躍でいらっしゃるのですね。どうぞこれからもお大事に。
keikoさん
2016/04/07 10:25
◇Keikoさん

こちらにもコメントをいただきありがとうございました。
クリちゃんが長男だとしたら、こちらの苺ちゃんは長女です。以前いただいたコメントにも書きましたが、ジビカのエピソードは娘のことを思い出して書いたものです。お兄ちゃんのことが大好きで、いつもお兄ちゃんにくっついてばかりいる苺ちゃん、そんな苺ちゃんを大事にしながら、ときどきこっそりうるさいなぁ、て思うこともあるお兄ちゃん(笑)。クリちゃんのお話だけで終わりにしてしまうと、長女から「私のお話はないの?」って聞かれそうな気がして、一念発起、娘のために書きました。 ですからクリちゃんと苺ちゃんの物語は私の二人の子供たちのための物語でもあり、二人がいればこそできた物語だと思っています。
苺ちゃんは娘以外のモデルがいなかった分、自由に書くことができました(^^♪

もしかしたら独りよがりのお話しかもしれない、と思うこともあるのでkeikoさんはじめコメントをくださった方たちから励ましていただき本当に嬉しいです。
主人の動眼神経麻痺という病気は完治がむずかしく、治すというより慣れるしかないような厄介な病ですが、あれから6年が過ぎ、今ではかなり「慣れた」ようです(笑)
ほかのものは読みにくいらしいのですが、楽譜は大丈夫、という嘘のようなホントの話です。楽譜が読めなくなる→演奏ができない、という不安が、「吹けるうちに、もっとリコーダーを吹きたい」という彼の音楽への思いに火をつけ、結果的に、会社を辞め、音楽で生きてゆくという決断に拍車をかけることになりました。つまり、今彼があるのは病のおかげかもしれません。世の中、わからないものです。
aosta
2016/04/10 10:38

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